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何か一冊本を読んでみて、主人公がとても気に入ったのに、そのキャラクターが出てくる作品は今読んだ一冊のみ…なんてちょっと寂しい経験ありませんか?
主人公が魅力的であればある程、たくさん色々な話を読みたくなりますよね。
そんなとき嬉しいのがその作品がシリーズ化されることです。
そこで今回は東野圭吾さんの人気シリーズをご紹介したいと思います!
東野圭吾さんといえば有名なのは「ガリレオ」シリーズですが、そのガリレオに引けを取らないくらいの人気を博すのが「加賀恭一郎」シリーズです。
2015年現在で10作品が発表されていて、ドラマや劇場版など映像化された作品も多くあります。
それではそんな作品の主人公はどんなキャラクターでしょうか。
加賀恭一郎とは?
シリーズの主役である刑事。所属署や階級は作品によって異なります。
元教師という経歴がありますが、退職までの経緯もシリーズ中で明らかになっていきます。
また、母親が失踪しており、父親とは時おり連絡は取り合いますが不仲。
母親が姿を消した理由や、父親と疎遠になった理由も徐々に語られていきます。
背が高くて彫の深い顔立ちであり、笑うとさわやか、との表現もあるのでどちらかといえば端正なルックスなのではないかと思われます。
風貌としては何となく探偵物語の松田優作さんを勝手にイメージしていたのですが、加賀恭一郎シリーズ作品がテレビドラマ化された際の「阿部寛」さんにすべて持っていかれました(笑)
長身彫深ぴったりですね。
性格は常に冷静で鋭い観察力を持っており、思いもよらない方向から事件解決の糸口を見つけ出します。
独自の視点から捜査を進める描写が多々。単独行動も多く、また事情聴取や聞き込みでも一見なにも関係ないような頓狂な質問を投げかけたりするので、本人も変わり者と思われることが多いようです。
冷静で落ち着いた印象が強い半面、人情に厚く心優しい人物でもあります。
ただただ事件のトリックや証言の矛盾を暴いて犯人を追いつめるだけではなく、なぜ犯人が事件を起こさなければならなかったのかその動機を丁寧に、慎重に紐といていく。
そして罪を犯してしまった人間や、犯罪に巻き込まれ傷ついた人達の心を救おうとします。
何かに追いつめられ法外な手段を取らざるを得なかった人々の心には寄り添い、罪を償うよう促し、一方身勝手な理由で罪を犯した犯人を前に声を荒げるなど、熱い正義感の持ち主でもあります。
そういった感情が強く押し出される部分というか、人間臭さというのは人を引き付ける大きな魅力になりますよね。
いろんな一面を持つ加賀さんですが、やはりシリーズ全体の平均的なイメージはマイペースな変わり者といったところです。
小説内の登場人物と一緒に、読者である私達も加賀さんのペースにどんどんと巻き込まれていきます。
それではそんな独特のリズムを持った加賀さんシリーズを、少々ご紹介していきたいと思います。
眠りの森

加賀恭一郎シリーズ第2弾となった作品です。
バレエ団を舞台に起きる不可解な事件に加賀刑事が挑んでいきます。
ある有名バレエ団の事務所内で殺人事件が起きる。
被害者は身元不明の男性であり、花瓶で殴られ殺害されていた。
加害者はそのバレエ団に所属する女性ダンサーであり、本人も男性を殺害したことを認めるものの、彼女はそれを「見知らぬ男性である被害者に突然襲われた為の正当防衛」だと主張する。
しかし警察は、被害者の身元が分からないままでは加害者である女性ダンサーの「見知らぬ男性」という主張を鵜呑みにすることは出来ないと考える。
そしてもし仮に女性ダンサーの言い分を信じるならば、全く無関係の男がバレエ団内に忍び込んでいたことになる。
それならばその動機を探らなければならない、とも。
事件の担当となった加賀刑事は独自の視点で捜査を進めていきますが、そのさ中さらに新たな事件が起こる。
バレエ団という狭い世界の中には、様々な思いや葛藤が渦巻いており……
私が初めて読んだ加賀恭一郎シリーズがもっと後期のものであった所為もあるとは思いますが、「眠りの森」の加賀さんは若く初々しい印象があります。
常に冷静で鋭い観察力を持ちながらも、人間的で温かい優しさを持っている…というのは前述のとおりで、シリーズ全体を通しての加賀恭一郎のイメージですが、しかし眠りの森ではそれとはまた違った一面が見られます。
どうしてそんな一面が垣間見えたのか?
その理由はやっぱり”LOVE”要素なんですね!
好いた惚れたが絡んでくると中々普段通りではいられないというのは、加賀さんでも変わらなかったようです。
実は加賀さんは事件が起こるより前、このバレエ団の公演を見に来たことがあったんですね。
その時の公演の演目は「白鳥の湖」。
ただバレエ自体にはあまり興味がなかったようで、ちょっと眠そうな雰囲気を醸し出したりもしてきますが(笑)
そんな中で加賀さんは主演のプリマではなく、いわば脇役である「黒鳥」の演技に目を奪われ、気に入ります。
その黒鳥を演じていたのが、眠りの森でキーパーソンとなる浅岡未緒でした。
上記の事件の捜査でバレエ団を訪れた加賀さんは直接美緒と対面する。
元々未緒に好意的な印象を抱いていた加賀さんは、実際に彼女と相対してみてさらに心惹かれていきます。
この”会ってさらに好意が増す”っていうところがいいですよね。
よくあるじゃないですか。
憧れだったり好意のあった人に実際に会ってみたら幻滅してしまうという話。
「え、イメージと違う…」
「こんな人だったんだ…」
なんてね。
勝手なイメージを作っておいてガッカリ…というのも失礼な話ではあると思いますが、でもどうしようもないことですよね。
ですからこんな”会ってさらに好意が増す”という状況は、なんとなくドキドキワクワクしてきてしまいます。
未緒はでしゃばらない控えめな女性という印象を受けます。
ですがしっかりと自分の意志があり芯は強い。
先頭に立ってバリバリと人を引っ張っていくリーダーシップのある女性もカッコイイですが、いわゆる日本人女性的な、前に出過ぎない美しさもまた魅力的だと思います。
加賀さんも「デート行きましょう!」なんて積極的に言うタイプではないようですので、少し控えめな未緒に惹かれたのではないでしょうか。
かくいう私も未緒にかなり好印象を持ちながら小説を読み進めていきました。
女性に好かれる女性キャラクターというのは作ろうとしても中々難しいですから、それがこの作品の大きな強みであり、読みやすさにもつながっていると思います。
「なんでこんな奴が好きなのよ?」
と思われてしまったら感情移入して貰えないですからね。
事件の捜査が進んでいくにつれ、2人の距離も歩み寄るように少しずつ縮んでいきます。
加賀さんは表情や態度に好意が分かりやすく出てしまうらしく、周囲の人には未緒への思いがバレバレの様子。
未緒もまんざらではないようですが、刑事と事件関係者ということもあってか中々進展らしい進展はありません。
なんかこう、くっつきそうでくっつかない感じがなんとも…甘酸っぱいなぁ!もう!という感じで(笑)
推理小説としてはもちろん、ほんのりとしたラブストーリーとしても楽しむことが出来るので、特に女性におすすめです。
ラストにタイトル「眠りの森」の意味も分かりますよ。
ただし1つだけ注意するところとしては、序盤でかなり一気に登場人物が登場するので、さらっと読み流してると
「あれ?お前誰?」
となってしまう可能性があります(笑)
2人の人物の行動がごっちゃになってしまったりですとかね。
しかしそこはどんどんと流れて行ってしまうドラマや映画とは違う活字の強み。
頭に入るまで読み直しが出来ますから助かります。
何度でもページをさかのぼり、自分のペースで読み進めていきましょう。
また「嘘をもうひとつだけ」という短編集の中に、同じタイトルの短編が収録されていて、そちらもバレエを扱った内容で加賀さんが登場します。
眠りの森の内容や登場人物に直接的には触れませんが、過去にバレエに関する何かがあったのだろうと匂わせる表現があります。
こちらも合わせて読んでみると面白いかもしれません。
赤い指

加賀恭一郎シリーズ第7作となった作品です。
どこにでもあるはずの平凡な家庭で起きてしまったある陰惨な事件に、加賀刑事が挑んでいきます。
引きこもりや認知性、家族の繋がりの希薄さなど、現代社会が抱える闇に大きく切り込んでいます。
前原昭夫は照明器具メーカーに勤めるごく一般的なサラリーマン。
妻と息子が一人、そして実母と共に暮らしている。
しかしその”当たり前のはずの家庭”は、すでに崩壊してしまっていた。
妻との関係は冷え切っており会話すらほとんどない。
中学3年生の息子・直巳は引きこもりがちで、気に入らないことがあれば癇癪を起こす。
実の母親は認知症を患っていた。
ある日”家族”の下へ足取りも重く帰宅した昭夫が見たものは、無残に殺害された幼い少女の遺体だった。
少女を殺害したのは直巳だという。
警察に連絡しようとする昭夫だったが、妻に「そんなことするぐらいなら自分が死ぬ」と脅しをかけられ思いとどまるしかなかった。
そして夫婦が出した結論は、死体を遺棄し、自分達は知らぬ存ぜぬを貫き、事件を隠蔽することだった。
しかし素人の浅知恵で遺棄された遺体はすぐに発見される。
所属署に捜査本部が置かれ、加賀刑事が現場周辺の聞き込みを行っていく中で、昭夫の家庭にも彼は訪れる。
認知症である昭夫の母の”ある行動”から昭夫らの証言に疑問を持った加賀刑事は、幾度も彼らの下を訪ね…
2006年に発売され、執筆の際は構想に6年も費やした作品ということですが、今現在の社会が抱える問題が色濃く描かれています。
息子を溺愛するあまり、罪を償わせようとすらしない過保護を通り越してしまった母親や、家庭や家族の問題を直視せずその場しのぎで目を逸らし続けてきた父親。
そして父親と同じ様に問題からは目を背け、親が悪い、自分は未成年だと主張する息子。
ここまで行き過ぎてはいなくても、どの家庭にもどの家族にも、少しはこんな側面があるのではないか…と思わせられる部分が多くあり、思わずゾッとします。
また、死体遺棄の計画を立て、口裏を合わせるための話し合いをする中で昭夫が、久々に家族が向き合い団結しようというのがこんなときか…とうな垂れるシーンは胸が痛くなります。
昭夫の母親が認知症であり、”自分や自分のしたことを認識できない状態”にあるということと、タイトルの”赤い指”が物語のキーとなっています。
また、加賀さんの従弟で刑事でもある松宮修平がこの作品で初登場します。
彼は加賀さんとその父親の関係性について疑問を持っており、近縁者の立場からそれに言及していきます。
前述の親子の不仲についても理由が明かされ、加賀さん自身の家族についても語られていきます。
少年犯罪や親子間の確執など、全体的に重いテーマを扱っているのでシリーズ内でもコミカル度はかなり低めです。
しかし様々なことを考えさせられる作品ですので、物語に没入したいという方におすすめします。
さてさて、加賀恭一郎シリーズから2作品をご紹介して参りましたが、興味を持っていただけたでしょうか?
明るいだけじゃない過去を持ちながら、だからこそ温かく情に深い加賀刑事の活躍。
手にとって読んで頂けたら嬉しいです。
他にもおすすめの東野圭吾さんの小説がありますよ♪
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